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鹿児島地方裁判所 平成7年(行ウ)5号 判決 1999年4月16日

原告

鬼ケ原俊一

右訴訟代理人弁護士

亀田徳一郎

右訴訟復代理人弁護士

山口政幸

被告

鹿児島県知事

須賀龍郎

右訴訟代理人弁護士

和田久

石走義宏

右指定代理人

南新五

外五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  被告が平成四年二月二五日鹿屋耕第二三六号をもってした原告所有の別紙一物件目録一の1の土地(以下「五九六〇番イ」といい、以下同様に鹿屋市花岡町の土地は地番によって称する。)を同目録二の1の土地(以下「四四一六番」という。)に、同目録一の2(一)の土地(以下「四四八三番」という。)、同目録一の2(二)の土地(以下「四五〇二番」という。)及び同目録一の2(三)の土地(以下「五九五九番」という。)を同目録二の2の土地(以下「五九四八番」という。)に、同目録一の3の土地(以下「五九六二番一」という。)を同目録二の3の土地(以下「四四三六番五」という。)にする換地処分(以下「本件換地処分」という。)は無効であることを確認する。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

第二  事案の概要等

一  本件は、原告において、被告が土地改良法(以下、単に「法」ともいう。)八九条の二第九項に基づき、鹿児島県営特殊農地保全整備事業西花岡地区(以下「本件事業」という。)に関してした本件換地処分には重大かつ明白な瑕疵があるから無効であるとして、被告に対し、本件換地処分の無効確認を求めた事案である。

二  事案の概要(争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実)

1  当事者

原告は、本件事業の第三換地区内に農地を所有し、農業を営んでいる者である。

被告は、本件事業の事業主体である鹿児島県(以下「県」という。)の知事である。

2  行政処分の存在

被告は、原告に対し、平成四年二月二五日付けの別紙二各筆換地等明細書記載のとおり、原告所有の五九六〇番イ、四四八三番、四五〇二番、五九五九番、五九六二番一(以下、これらの土地を「本件従前地」又は単に「従前地」という。)を四四一六番、五九四八番、四四三六番五(以下、これらの土地を「本件換地」又は単に「換地」という。)にする本件換地処分をし、原告はその旨の通知(鹿屋耕第二三六号)を受けた。

3  本件事業の概要

(一) 本件事業開始手続等

(1) 鹿屋市花岡土地改良区(以下「土地改良区」という。)理事長である児島盛敏(以下「児島」という。)ほか一六名は、鹿屋市西部の国道二二〇号線を挟み、鹿屋体育大学の向かい側に位置し、鹿児島湾沿いに開ける標高一三〇〜一五〇メートルで西側に傾斜したシラス台地について、「降雨時における災害を防止するため、台地周辺に承水路、傾斜部に集水路、台地下に排水路を計画して排水系統の整備を図るとともに、ほ場区画の形状、農道網などのほ場条件を整備と併せて実施する。これらの事業の実施について集団化を進め大型営農機械化の導入による農業経営の合理化、作物生産団地の育成など高生産性農業の振興のための農業生産基盤の整備を目的」(乙四)として、本件事業を申請することにした。

そこで、児島らは、まず、本件事業施行地域が国土調査未了地域であったことから、航空測量を実施して従前地図面を作成し、権利関係等を調査して各人別名寄帳を作成するなどした上、昭和五四年一〇月一一日付けで本件事業計画の概要公告をし、本件事業施行地域に関わる権利者の事業施行同意を添えて、被告に対し昭和五五年一〇月二八日付けで本件事業を申請した(法八五条)。

被告は、同年一二月四日、本件事業を適当とする旨の決定をし、本件事業計画決定につき、昭和五六年二月二日公告をし、同日から同月二一日まで鹿屋市役所にて縦覧をした。そして、利害関係人の異議申立期限の同年三月八日の経過により、同月九日、本件事業計画が確定した。これによると、地区面積は213.5ヘクタール、換地区数が四、受益者三八九名、同意者三五五名(同意率91.3パーセント)であった。

(2) 事業の進行に伴い、追加の希望があり、平成元年一一月四日付けで本件事業の計画変更の概要公告がなされ、平成三年一月一一日に計画変更決定の公告(乙五)をし、同月一二日から同月三一日までの縦覧期間を経た上、同年二月一五日の異議申立期限の経過により、同月一六日、本件事業の計画変更が確定した。これにより、地区面積は3.5ヘクタール追加され、二一七ヘクタール、換地区数が五、受益者三九一名、同意者六名の内五名(同意率83.3パーセント)となった。

(二) 工事の進行経過

本件事業における農地保全、区画整理(ほ場整備)、関連農道の工事は、昭和五五年度に着工し、平成二年度をもって工事は完了した。本件事業のうち、第三換地区の区画整理に係る工事は、地区面積が田29.4ヘクタール、畑21.2ヘクタール、その他5.1ヘクタールの計55.7ヘクタール、権利者数二八五名で、まず昭和五七年度に三工区に分けて(主に田地域)発注し、その後、昭和五九年度に四工区に分けて(主に畑地域)発注し、面整備を終えた。

(三) 本件事業の執行

県は、その出先機関である県鹿屋耕地事務所(以下「県事務所」という。)が本件事業主体として本件事業を執行し、区画整理に伴う換地処分は平成三年度に終了した。

県事務所は、昭和五七年七月ころ、鹿児島県土地改良事業団体連合会鹿屋支部(以下「土改連」という。)に対し、区画整理に伴う換地業務(その業務の内容は、作業の流れによると、従前図調整、従前地再調査、換地設計基準の確定、従前地評価、換地評価、換地計画原案作成、一時利用地指定通知書作成、換地計画書作成、換地処分登記等である。)を委託し、土改連がその作業を実施した。

また、県事務所は、土地改良区に対し、平成元年一〇月一三日付け、平成二年一一月二六日付けで本件事業の清算事務(換地処分による清算金の徴収支払)を委託した。土地改良区は、本件事業施行地域の地権者を組合員とする組織であり、本件事業の円滑な推進を図るための協力団体として、地権者の要望等を事業主体や土改連に取り次ぐ役割を担っており、本件事業完了後の土地改良施設の維持管理団体でもあった。

(四) 第三換地区の換地手続の概要

(1) 土改連は、昭和五七年七月以降、従前図調整、従前地再調査をし、土地改良区による地権者への従前地図面及び各人別名寄帳の閲覧、確認をしつつ、換地計画の樹立のため、昭和五七年九月、現地の実情に詳しい鬼ケ原文雄ほか一四名の換地委員からなる換地委員会を設け、換地設計基準を確定した。そして、換地委員は評価委員を兼ねていたところ、土改連の換地士の指導を受けつつ、従前地評価や工事後の区画(換地)の評価をした上で、換地委員会において、昭和五八年三月二九日(主に田地域)、昭和六〇年四月九日、同月一〇日(主に畑地域)に換地選定作業を実施した。そこで、土改連は、換地計画原案を作成し、それに基づき一時利用地指定図を作成して現地に杭打ちをし、一時利用地指定通知書を作成した。

被告は、それに基づき、原告に対し、昭和五八年三月三一日付け、昭和六〇年四月一六日付けで一時利用地を指定した。

(2) 県事務所は、昭和六二年九月から昭和六三年三月までの間、各一時利用地等の地積を確定するため、測量会社に委託して確定測量を実施した。

その結果を踏まえ、土改連は、昭和六三年九月二九日ころ、地権者に対し、確定測量図に換地予定者氏名を記入した図面と換地計画書原稿を示し、一時利用地指定通知書と確定測量結果との面積の相違や余裕地配分者の確認など換地に関する最終確認をする個別説明会を行った。そして、土改連は、その後の従前地の所有権移転等の登記簿照合をした上で、昭49.7.12四九構改B第一二三二号農林省構造改善局長通達「換地計画実施要領について」の別紙様式第一五号に則り、換地計画書を作成した。

(3) 被告は、平成元年八月二二日付けで第三換地区換地計画に係る地権者で構成する権利者会議(換地会議)を招集し、同年九月八日開催の同会議において、地権者の三分の二以上の出席のもとに、出席者の三分の二以上の賛成により、同計画が承認された。ただ、その際、反対している地権者五名から補修工事等の要望があったことから、補修工事を施し、平成二年一二月二六日、右関係地権者九名で、同計画変更権利者会議を開催し、変更換地計画が承認された。

(4) 被告は、平成三年一月二三日、変更換地計画を含む換地計画を定め、同月三〇日にその旨の公告(告示第二四〇号)をし、同月三一日から同年二月一九日まで鹿屋市役所にて換地計画書の縦覧をした。その結果、原告からは異議申立はなかったが、地権者一名から異議申立があったことから、被告は、異議申立を容認して変更換地計画書を作成し、変更換地計画に係る関係地権者三名の変更換地計画の同意を得た上で、同年一二月二七日変更換地計画を定め、平成四年一月一〇日、同計画を定めた旨の公告をし、同月一三日から同年二月六日まで縦覧をした。そして、同月二一日の異議申立期限までに何らの異議申立もなかったことから、同年二月二五日、第三換地区の権利者全員につき換地処分をし、同年三月一一日に同換地処分の公告(告示第五七八号)をし、同年八月五日には処分登記も完了した。しかし、換地処分通知書(各筆換地等明細書)の送付が原告を含む数名につき遅滞しており、原告の指摘を受けて、平成五年一月一四日ころ送付し、同月一五日ころ原告に送達された。

三  争点

本件換地処分には、次のとおりの事由により、無効原因となる重大かつ明白な瑕疵が存するといえるか否か。

1  境界・地積確定手続について

本件事業における境界確定手続は、国有財産法や測量法に違反したものか。従前地の地積確定につき「実測」したといえるか。

2  余裕地設定処分について

余裕地を設定し、土地改良区が処分することは違法か否か。本件換地処分の無効原因となるか。

3  清算手続について

(一) 土地改良区の実施した別途清算(換地計画とは異なる独自の清算方式)は違法か。本件換地処分の無効原因となるか。

(二) 清算金の徴収交付は未了か、未了であれば本件換地処分の無効原因となるか。

4  照応原則について

本件換地処分は照応原則に違反しているか。無効原因となるか。

(一) 一筆毎の照応を要するか。

(二) 地積、等位評点につき照応しているか。

(三) 横の照応は満たしているか。

(四) 原告は地積、等位評点につき承諾しているか。

5  換地処分通知書の送付遅延は本件換地処分の無効原因となるか。

第三  当事者の主張

一  争点1(境界・地積確定手続)について

1  原告の主張

(一) 国有財産法三一条の三は、里道・水路につき境界確定協議を義務づけており、境界確定協議が整わない場合はいかなる行政処分もしてはならないと規定している。また、測量法三三条にいう作業規程の準則では、境界の確認は現地で一筆毎にすることになっている。

(二) しかるに、本件事業においては、事業地域内外の境界立会いも一筆ごとの立会いもしておらず、現在も無籍地が多数あり、登記簿や一七条地図と現地が一致しないものもある。第三換地区と第四換地区に跨った五八九七番、五八九八番、五八九九番の土地が分筆されずに処理されている。また、国有財産である里道・水路の境界確定協議もされないまま事業が施行され、原告所有の四四八三番、四五〇二番の水路に面した土地も境界確定も地積確認もされていない。五九五九番は各人別名寄帳では鬼ケ原文雄の従前地として処理されている。

(三) 被告は、航空測量法による実測を行ったと主張するが、航空測量法は、対空標識を設置して実施すべきであるのに、土地改良区では筆界点に対空標識を設置した事実はなく、従前地の地積測量を行ったとはいえない。

(四) したがって、本件事業における境界・地積確定手続は、国有財産法、測量法、航空測量法に違反してなされたものであり、本件換地処分は違法無効である。

2  被告の主張

(一) 国有財産法三一条の三は、国有財産の境界が明らかでないため、その管理に支障がある場合の手続を規定しているものであり、本件については妥当しない。

(二) 測量法三三条は、公共測量として実施する際の規定であり、第三換地区の測量については、同法施行令一条一項四号ニに該当し、同法三三条の規定は適用されない。

(三) 本件事業では、従前地の地積は換地設計基準において「実測」による旨定めているが、その方法についての定めはない。通常、実測の方法としては、地上法と航空測量法(空中写真測量法)があり、本件の場合は航空測量法に拠った。従前地については、航空測量図をもとに所有者ごとの境界ないし筆界を定めて求積し、各所有者に閲覧のうえ承諾を求め、不服申出をした者には、現地において関係者の立会を求め、再測量を実施した。

(四) したがって、境界・地積確定手続に違法な点はない。

二  争点2(余裕地設定処分)について

1  原告の主張

(一) 土地改良法では、余裕地の売却は認められておらず、その売却金を工事の負担金に充当することも許されない。しかるに、土地改良区では、組合員が法に無知であることを利用し、余裕地として取り上げた土地を違法に売却し、売却代金を工事の負担金に充てている。

(二) 原告は、余裕地売却につき換地処分として登記の処理がされることを事前に説明されておらず、説明を受けていれば、現金を支払って抵当権付きの土地の購入を承諾するはずはない。

(三) 余裕地は、土地改良区の役員の土地に隣接して設けられ、増配分されている。田一〇アール当たり売買実例では二〇〇万円であるのに、役員に増換地した土地は一〇アール当たり一〇〇万円であり、役員に対し不当に利得を与えている。また、右配分地は、平成元年度から事業実施された古江バイパスが通る予定で、地価上昇が予測され、平成四年の配分時にはその有利性が周知のところであった。

(四) 土地改良区は、高圧電線鉄塔敷地につき第三換地区では雑種地として土地改良区有とし、第二換地区では九州電力に売却した。また、土地改良区は、現況田(四三一四番三)を雑種地として取得している。

(五) したがって、余裕地を土地改良区が取得して売却したことは、土地改良法に違反しており、本件換地処分は違法無効である。

2  被告の主張

(一) 土地改良区ないし換地委員会は、余裕地を有償で配分したが、これは土地改良区が行った別途清算の一環として実施したものである。

余裕地の有償配分は、土地改良法上これを認める規定はないが、地権者の同意承諾のもとになされるものについてまで禁止する趣旨とは解されない。

本件においては、土地改良区は、余裕地の有償配分を含む別途清算について、事業説明会、権利者会議等において逐次、処理方法も含めて具体的に説明してきており、地権者からの異議も出ず、承諾のもとに行われた。その上、有償配分によって得た代金は、工事費の為の借入金の返済に当てられており、これにより地権者は分担金の負担を免れ、利益を受けている。

(二) 原告は、四四三六番五の土地が余裕地であることを知って買受け申込みをし、代金を支払った。原告は、余裕地の登記の処理についても、十分これを知り、明示又は黙示の承諾の上で余裕地を買い受けたのである。

(三) 換地に隣接して余裕地が設定され、増配分(清算金で調整される。)されたものもあるが、これは役員に限ったことではなく、役員に対し不当に利得を与えた事実はない。

(四) 九州電力に売却された土地については、いずれも換地処分の段階で取得希望者がなく、やむなく土地改良区が取得し、九州電力の要望に応じて売却されたものである。

(五) したがって、本件余裕地の設定、処分は何ら違法ではない。仮に、土地改良法違反であるとしても、照応の原則に違反しない以上、これを理由に本件換地処分が無効となるものではない。

三  争点3(清算手続)について

1  原告の主張

(一) 別途清算について

(1) 土地改良法では、五三条二項が清算金の支払及び徴収の時期を換地計画の中で定めなければならないと規定し、同法五四条の三が換地計画で定めた清算金を徴収し又は支払わなければならないと規定しているところ、土地改良区が換地計画を基にした業務委託契約の中で別途清算を行なったことは、右の規定に反するから、本件換地処分は違法である。

被告は、別途清算の根拠を慣習法に求めているようにも解されるが、公の秩序に反する慣習法を認めることはできない(法令二条)。

(2) 土地改良区が別途清算を行った事情としては、前記の高圧電線鉄塔敷地や田を違法に取得する目的のほか、土地改良区役員の寺村光二らが換地による土地取得を装い農地法の許可を潜脱する等の目的を有していたことがある。

(3) 原告が、別途清算を承諾した事実はない。原告は、土地改良区から清算金通知書の送付を受けたが、同通知書はその金額が原告の関知しないものであるなど効力がないものである。また、清算金分割納付書には原告の押印があるが、原告は金額欄が空白であったものに県の清算金が記入されると考えて押印したのである。

(4) 別途清算については、土地改良区が行ったものであっても、県は土地改良区に清算を委託し、委託のとおりに履行されたとして委託料を支払っている以上、無関係とはいえない。

(二) 清算金の徴収交付について

清算金の徴収及び交付は土地改良法五四条の三及び換地計画書において公告の日より三か月以内にするよう定めているのに、未だに清算されていない。

(三) 以上のとおりの清算手続の違法は、本件換地処分の重大な瑕疵であり、本件換地処分は無効である。

2  被告の主張

(一) 別途清算について

(1) 本件事業では、清算事務を受託した土地改良区において独自の清算方法を採用し、従前地と換地との面積を比較し、その増減に応じて独自に算定した単価をもって清算金の徴収、支払をすることとしている。これは、従来から他の地区や他県の土地改良事業において採用されている方法であること、この方法によるのが公平かつ簡明であることなどを理由として土地改良区が採用したものである。

なお、寺村光二らは本件事業開始の以前から当該土地を取得し、永年にわたり耕作していたため、同人らの従前地として処理したのである。

(2) 本件換地処分における別途清算は、地権者の同意を受けて行われたもので、土地改良法も地権者の同意に基づく別途清算を排除するものではないと解される。

土地改良区においては、清算委員に具体的な清算方法の決定、清算金の徴収、支払の事務を一任し、清算委員は、清算委員会を開き、清算方法、清算単価を決定し、これに基づく各人別の清算金を算出し、清算金通知書を各人に配布した。その後、土地改良区では、清算金算出基礎説明会において、清算金算出の内容等につき説明を行い、平成四年一二月初めに清算金納入通知書又は交付金支払通知書が関係者に配布され、清算金の徴収又は支払がなされた。

(3) 原告についても、平成四年一一月初めに清算金通知書が配布され、清算金算出基礎説明会における説明等によって別途清算の方法、内容について十分知りながら、何らの異議の申出をしていないことから、明示的又は黙示的に別途清算に同意承諾していたというべきである。

(4) したがって、別途清算は違法ではない。仮に、別途清算が土地改良法に違反するとしても、被告がした本件換地処分は別紙二各筆換地等明細書のとおりであって、これが照応の原則に反しない以上、本件換地処分が無効になるものではない。

(二) 清算金の徴収交付について

前記のとおり、土地改良区における別途清算については、関係者からは何ら異議の申出もなく、清算を終了しており、清算金の徴収交付につき何ら違法はない。

(三) 以上より、清算手続に関して本件換地処分が無効となることはない。

四  争点4(照応原則)について

1  原告の主張

(一) 一筆毎の照応について

土地改良法五三条三項は、制限物権がある場合には従前地と換地の組み合わせごとに同条一項二号、三号の基準に適合することを求めているところ、本件従前地には根抵当権が設定されているから、対応する換地の組み合わせごとに右基準に適合する必要がある。

しかるに、原告の場合は、四四八三番と四五〇二番の田、五九五九番の畑が一括して五九四八番の畑に換地されており、しかも、特別換地同意書も取られていないから、本件換地処分は同法五三条三項に反する。

(二) 地積について

(1) 従前地の面積について

被告は、前記のとおり、従前地につき適法な実測をしていない上、次の事情からも、被告主張の従前地の面積は根拠を欠くものである。

まず、四四八三番、四五〇二番の土地について、国有地との境界確定がなされておらず、水路の法部分が国有地に取り込まれている。

また、五九五九番の土地については、五九五七番乙ロと里道とが接していたところ、五九五七番乙ロの土地が里道拡張により取り込まれてしまったので、五九五九番の土地が一枚畑で里道と隣接する事になった。

さらに、被告は、五九五七番乙ロの土地と五九六二番一を入れかえ処理したというが、右の処理につき原告は同意しておらず、また、面積を二〇〇平方メートルとするのも根拠がない。

したがって、登記簿上の面積は従前地の実面積を反映しているものであるから、従前地の面積は登記簿の面積とすべきである。

(2) 地積の照応について

登記簿上の従前地の面積を基礎にして、換地交付率93.96パーセントにより計算すると、四四八三番、四五〇二番、五九五九番に対しては換地は三〇九七平方メートルあるべきところ、従前地面積を過小計上しているため、実際は二八三五平方メートル(二六二平方メートル減)の換地であり、また、五九六二番一に対しては九二八平方メートルあるべき換地が実際は五〇五平方メートル(四二三平方メートル減)であり、不当不公平である。

もっとも、五九六〇番イについては、登記簿上の面積は七五三平方メートルであり、換地は七〇八平方メートルとなるべきところ、一七六二平方メートルの換地(一〇五四平方メートル増)であるが、この登記簿上の面積は、外見上の不合理であり、何らかの手違いによるものである。

(三) 等位評点について

(1) 等位評点は換地及び清算金に重大な影響を与えるところ、土改連の職員で換地士の松留悦郎(以下「松留」という。)が従前地の評価につき故意に原告に不利に操作し、換地については高く評価しすぎており、原告に対する殊更に不利な扱いであることが明らかである。

すなわち、従前地の五九〇六番イは、等位評点九二点で相当であるが、これに対する換地の四四一六番は、地味、日照通風、排水、広狭、形状、通作関係等からみて、九六点は高すぎ、八〇点が相当である。

従前地の四四八三番、四五〇二番、五九五九番は、地味、日照通風、排水、広狭、形状、通作関係等からみて、五九六〇番イと比較して劣るところはないから、四四八三番が八九点、四五〇二番が九四点、五九五九番が九二点で相当である。しかるに、三筆いずれも本件換地処分では五八点と異常に低く、恣意的で客観性がない。これに対する換地である五九四八番は九八点とされているが、同土地は、従前の土地の高さと比較して2.1メートルも下がっており、通風、排水の点だけを取り上げても、この評価は高きに過ぎ、七六点が相当である。

従前地の五九六二番一は、七一点とされているが、五九六〇番イの土地と比較しても、地味、日照通風、排水、広狭、形状、通作関係等からみてそれほど劣るものではないから、八一点が相当である。これに対する換地とされる四四三六番五は、九三点で相当であるが、この土地は原告が余裕地を購入したものであり、換地ではない。

以上の原告の採点は総じて客観的であり、妥当なものと評価し得るところ、原告は等位評点につき著しく不利益な扱いを受けており、公平の原則に反する。

(2) 被告主張の清算金について、別紙二各筆換地等明細書では一〇三万九四八四円であるのに、被告の見直し評点では二六万四二八五円であり、その差額は七七万五一九九円となり、畑の換地価格(一平方メートル五〇〇円)で換算すると一五五〇平方メートル(15.5アール)に相当する過大な清算金を原告に課したことになるから、不平等な扱いであり違法である。

被告は、実際の清算は別途清算が行われるから右清算金を原告が徴収されることはないと主張するが、別途清算そのものが違法であり、しかも原告が徴収されない保証はない。

(四) 横の照応について

(1) 原告の従前地と換地とが仮に照応しているとしても、照応の原則とは増加分の公平な配分を含めたものと解すべきところ、実質的に他の組合員らの得た利益、或いは少なくともその平均的利益と対比して原告の得た利益が著しく少ないというような場合は、法にいう照応性に違反し、土地改良事業の適正を害する違法な換地というべきである。

(2) 第三換地区の平均的増加は一三点であり、換地委員長鬼ケ原文雄と比較してみると、従前地評点平均は79.25点で、換地評点は九六点であり、16.75点の増加である。原告の従前地評点平均は九二点(見直し後のもの)、換地評点平均は九五点(被告主張)であり、地区平均の四分の一以下であり、公平原則に違反している。

(3) 本件では、土地改良区の役員の土地に隣接して余裕地が設けられ、増配分されている。しかも、右配分地は平成元年度から事業実施された古江バイパスが通る予定で、地価上昇が予測され、平成四年の配分時にはその有利性が周知のところであった。このように役員について有利な換地処分は、公平の原則に照らして疑問がある。

(五) 原告の承諾について

原告は、一次利用地指定直後の昭和六〇年ころから、電話、口頭及び文書で、異議申立をした。従前地の実測面積について原告が承諾したこともない。

原告は、従前地各人別名寄帳及び換地計画書原稿に承諾の印を押捺した事実はない。右印については、原告が配分地につき土地改良区の理事らと話合いをした際、その確認書を作成するため松留に印鑑を渡したときに、松留が無断で押したものと思われる。

(六) 以上のとおり、本件換地処分には照応原則に違反し、重大かつ明白な瑕疵があるから、本件換地処分は無効である。

2  被告の主張

(一) 一筆毎の照応について

同一権利者の従前地数筆に対して一筆の換地を定め、また従前地一筆に対して数筆の換地を定めることもできるため、同一権利者の数筆の従前地に対して数筆の換地がある場合、対応関係には幾通りもの組合せが生じることから、照応については、対応関係にある従前地と換地との個々の照応ではなく、換地全体が従前地全体に照応していれば足りるものというべきである。そして、土地改良法五三条三項の規定は権利者の保護を目的とするものであるが、必ずしも一筆毎に照応すべき旨を定めたものとはいえず、数筆の従前地に同一権利者の抵当権等が設定され、対応する換地が数筆ある場合は、一筆ごとの照応ではなく、全体で照応すれば足りると解すべきである。原告所有に係る従前地五筆については、全部に同一根抵当権が同時期に根抵当権を設定しており、換地三筆全部に移記されているため、全体で照応していれば根抵当権者の担保権は保護されるから、一筆毎の照応の必要はない。

(二) 地積について

(1) 従前地の面積について

従前地の面積は、前記のとおり、適法に実測されている。

原告指摘の点は、いずれも理由がない。

すなわち、四四八三番及び四五〇二番の東側に接する水路は、もと土水路であったものがコンクリート水路に改良された結果、法部分等に係る余剰地が生じたものと考えられ、四五〇二番の南側に接する水路との境界は、水路の法上部分を境界と認定した。同様な取り扱いをした他の所有者からは何ら不服の申出はなされていない。なお、国有地の地区編入は、国有財産管理者である建設省所管国有財産部局長である被告の承認に基づいてなされている。

また、五九五九番については、航空測量図によると道路に隣接し、実測面積一四九〇平方メートルであるが、当該地番を含む地域の字図及び登記簿を照合すると、五九五九番の南側に隣接して五九五七番乙ロが存在するので、五九五九番の実測面積を一二九〇平方メートル、五九五七番乙ロの実測面積を二〇〇平方メートルと割り振って、境界と実測面積を確定した。

さらに、五九六二番一については、鬼ケ原文雄が同土地の所有権移転登記手続をするに際し、誤って五九五七番乙ロにつき移転登記がされたことから、本件換地処分において、原告及び鬼ケ原文雄の同意の上、五九六二番一と五九五七番乙ロを入れ替えた形で処理したものである。

(2) 地積の照応について

原告の従前地の面積は、別紙二各筆換地等明細書(甲一)記載の地積欄の上段括弧内のとおりであるところ、換地は換地交付基準地積を四五四平方メートル(従前地と比べると一五六平方メートル)上回っており、原告は大幅に有利な取扱いを受けており、原告の不当不公平との主張は当たらない。

(三) 等位評点について

(1) 原告は、等位評点について、別紙二各筆換地等明細書によると、大幅に有利な取扱いを受けている。

ただ、従前地の等位評点については、原告の従前地の全てに担保権が設定されており、個々の従前地に対して換地を配分していくと換地を細分化せざるを得なくなり、農地の集団化という本件土地改良事業の趣旨に反することになる一方、換地を細分化しない方法での組合せをすると、換地価格が従前地の価格を下回ることになるから、これを避けるために、実際よりも従前地の等位評点を下げたのである。

そこで、従前地の等位評点について、現存する図面等から周囲の等位評点状況に照らして机上で再調査してみると、従前地の四四八三番、四五〇二番、五九五九番は五八点と低いことから、四四八三番を八一点、四五〇二番を九四点、五九五九番を九二点と見直し可能であるが、これらに対応する換地の五九四八番は九八点を九六点に見直したとしても有利に照応している。また、従前地の五九六二番一(五九五七番乙ロ)は九二点と見直し可能であるが、これに対応する換地の四四三六番五は九三点が適切であり、これも有利に照応している。

そうすると、従前地の等位評点を見直したとしても、換地の等位評点は従前地の等位評点より同等以上であり、十分に照応している。

なお、原告は、換地の評価が高すぎると主張するが、評価は客観的になされており、他の換地の評価と比べても高すぎるものではない。

(2) 本件換地処分による正規の清算金は一〇三万九四八四円であるところ、従前地の等位評点を見直した場合(四四八三番は原告主張の八九点とする。)の換地交付基準額は三二五万七六八五円であり、換地評定価格は三五二万一九七〇円であるから、清算金の徴収額は二六万四二八五円となる。そうすると、原告の場合、従前地の見直し評価をした場合に比較して、七七万五一九九円の徴収の増加となるだけである。

因みに、本件換地処分における清算は土地改良区による別途清算であり、本件換地処分に基づく清算金の徴収は行われず、原告が二重に清算金を徴収されることはない。

(3) 以上によれば、従前地の等位を下げたことは本件換地処分の無効を来すような重大な瑕疵とはいえない。仮に、等位を下げたことにより照応の原則に違反するとすれば、見直し評価に基づく清算金をもって清算すれば足りる。

(四) 横の照応について

(1) 従前地と換地との照応性については、用途、地積、自然条件、利用条件等を総合的に勘案して判断されるべきもので、単に評点のみで判断すべきものではない。

(2) 原告は、土地改良区の役員に有利な換地が配分されており、不公平である旨主張するが、児島の場合は、父名義の土地、母、兄弟との共有名義の土地も従前地として耕作していたところ、これらの土地については、基準地積より減であり、全体としてみても三七八平方メートルの減である。その他の八木政則、寺村、本田、新保、田原といった役員の換地には、余裕地を有償で取得したもの、他の者が受けるべき換地を有償にて取得したもの、法部分、道路不要部分を取得したものなどが含まれており、これらを差し引くと実際に各人が従前地に対する換地として配分を受けたものは減少するのであり、役員が有利な換地配分を受けたものではなく、不公平な換地が行われたものではない。

(五) 原告の承諾について

原告は、地積及び等位評点につき換地計画書原稿及び換地計画書を閲覧する機会があったのに、行政不服審査法に基づく異議申立をしていないばかりか、従前地各人別名寄帳や換地計画書原稿に承諾の印を押捺していいた。

(六) 以上のとおり、本件換地処分には何ら照応原則、公平原則に違反する点はない。仮に違法があったとしても、本件換地処分の無効原因となるものではない。

五  争点5(換地処分通知書の送付遅延)について

1  原告の主張

土地改良区では、裏清算をするため、故意に換地処分通知書の送付を遅らせ、平成四年二月二五日の換地処分の通知が平成五年一月一五日に到達したのであり、この点は本件換地処分の瑕疵として無効原因となる。

2  被告の主張

換地処分通知書の配達、送付の遅れは、原告の分のみ遅れたものではなく、その遅配の瑕疵は、送達の時点で治癒されたものというべきである。

第四  争点についての当裁判所の判断

一  争点1(境界・地積確定手続)について

1  国有財産法三一条の三違反について

まず、国有財産法三一条の三は、「国有財産の境界が明らかでないためその管理に支障がある場合」の管理者側の手続を規定したものであり、全ての国有財産につき隣接地所有者との境界立会協議を義務づけているわけではない。また、第三換地区において原告ら隣接地所有者が境界につき異議を申し出たとの具体的な主張、立証がないから、右の「管理に支障がある場合」にも当たらない。したがって、原告の国有財産法違反の主張は正当でない。

2  測量法三三条違反について

また、測量法三三条は、公共測量(同法五条)を実施する場合の規定であるところ、本件事業の従前地測量は、対象地が面積201.4ヘクタール(2.014平方キロメートル)、第三換地区で55.69ヘクタールであるから、基準点を使用しない測量であって、測量法施行令一条一項四号ニの「面積が七平方キロメートル(北海道にあっては、一〇平方キロメートル)未満であり、かつ、基本測量又は公共測量によって設けられた三角点、図根点、多角点又は水準点を二点以上使用しない地形測量又は平面測量」に該当し、公共測量ではないことになる。したがって、本件事業には測量法三三条は適用されず、この点の原告の主張も採用できない。

3  従前地の地積測量について

(一) 前記第二、二の事実と証拠(甲一一、一二、乙七の1、2、一一、一三の1ないし4、一四の1ないし4、一五の1ないし3、一六の1、2、一八ないし二二、二三の1ないし3、二四、二五の1ないし3、二七、二八、二九の1ないし3、証人松留悦郎、同上山崎博隆、原告本人の一部)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、同事実を覆すに足りる証拠はない。

(1) 児島らは、本件事業実施にあたり、第三換地区の従前地の地積について、本件事業施行地域が国土調査未了地域であったことから、公簿面積によるのは妥当でないと考え、実測面積によることにしたが、従前地測量においては面積、形状等が判れば十分であり、現地での一筆測量によると事業費が高騰することから、地権者に説明した上で、実測の方法として航空測量法(空中写真測量法)によることに決定した。

(2) 航空測量法は、筆界点を識別するための対空標識を設置したうえで航空機等から地上を撮影した写真により地上の状態を相似に再現して形状、位置等を測定する方法であり、測量法三条に規定された測量の一つであり、土地改良事業の従前地地積確定に必要な精度をもった地形図として従来から行われ、また、平成八年度からは国庫補助の対象にもなったものである。

(3) 従前地の地積測量は、航空測量図(航空写真から図化された実測図)を作成し、同図をもとに字図、土地登記簿等と照合を行い、図面上で所有者ごとの境界ないし筆界を定めて求積し、各所有者に従前地図面及び従前地各人別名寄帳を閲覧のうえ承諾を求め、これに対し不服の申出をした者については、現地において関係者の立会を求め、再測量を実施するという経過で実施され、その結果、従前地の実測面積が確定した。

(4) 原告は、昭和五八年、昭和六〇年に送付された一時利用地指定通知書及び昭和六一年ころ入手した従前地各人別名寄帳により、実測地積を確認したが、それにつき異議を述べた形跡はない。

(二) 右認定事実によれば、原告所有の従前地を含む第三換地区内の従前地の地積については、航空測量法により、適正に測量がなされ、それは換地設計基準に定められた「実測」というべきものである。

原告は、右航空測量において対空標識を設置しなかったと主張するが、同主張を認めるに足りる証拠はないから、同主張は採用できない。

4  なお、原告は、本件事業区域内外に跨った土地を本件事業地域に編入したため地番のない無籍地が生じた、第三換地区と第四換地区に跨った土地につき分筆されずに処理されている、登記簿や一七条地図と現地とで一致しないものがあるなどの主張をするが、右主張と原告に対する本件換地処分との関係が明らかでなく、重大かつ明白な瑕疵を認めるに足りる証拠もないから、いずれの主張も採用できない。

5  以上のとおり、境界・地積確定手続の瑕疵をいう原告の主張は失当である。

二  争点2ないし4(余裕地設定処分、清算手続及び照応原則のうち等位評点)について

1  前記第二、二の事実と証拠(甲一四の1ないし5、一八、一九、二〇の1ないし5、二一の1ないし3、二六、二七、乙七の1、九ないし一二、一三の4ないし6、一四の4ないし6、二三の1ないし3、二六ないし二八、三〇、三一、三二の1、2、三三ないし三五、証人松留悦郎、同上山崎博隆、同児島盛敏、原告本人の一部)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 前記第二、二、3、(四)、(1)の換地設計基準(乙一一)には、換地選定を円滑に処理するため選定過程において必要があるときは換地交付率について2.0〜2.6パーセント以内の余裕率をもって配分を調整することができる旨の定めがある。

また、前記第二、二、3、(四)、(2)の本件換地計画書(乙九)には、清算金の算出方法について、評価方式として項目別配点方式、清算方式として比例地積清算方式(従前地地積比例)の定めがあり、これによると、従前地の価額総額と換地の価額総額との差額(増加額)を従前地の地積総計に占める各従前地の割合に比例して按分し(従前地一平方メートル当たり約一三〇円)、この按分額とその従前地の評定価格とを合計して換地交付基準額を定め、これと換地の評定価格との差額を徴収・交付することになる(清算金の徴収、交付とも総額二五五一万八三七六円であり、差引き〇円となる。)。また、同計画書には、県から清算事務を委託された土地改良区において、各地権者が各筆換地等明細書に明示された清算金を換地処分の公告の日の翌日から三か月以内に一括して徴収し又は支払う旨の定めもある。

(二) しかるに、本件事業施行にあたり、土地改良区の役員(以下、単に「役員」という。)らは、先に本件と同種の土地改良事業を実施した隣接の東花岡地区の土地改良区の組合員から情報を得て、本件事業当初から、県の清算方式とは異なる方式を検討していたところ、換地委員兼評価委員に選任された役員から、項目別配点方式により従前地を適正に採点するのは能力的に困難であり、かつ、従前地は、平坦地もあるが、山間地帯もあり、その中央付近に市道があるなどの地形の相違のほか、排水路の利便にも差異があるのに、これらの条件を配慮せず、換地区を一体として換地、清算を行う方法は公平でないとの意見が出たことから、基本的には、換地については従前地付近に配分し、地積の増減について条件別に幾つかのブロックに分けて清算を行うという方針を採用することにした。右の方針については、地権者に対して説明会などで度々説明がされていたが、これに対して地権者から別段の異議は出なかった。

また、同役員らは、近隣の同種事業の例に倣い、別途清算の一環として、事業面積の二〜三パーセントを土地改良区が余裕地として取得して地権者に売却し、その売却代金を本件事業の地元負担金(工事費)支払のための借入金の返済に充てること、従前地に比べ多くの土地を取得する者には清算単価より高額の時価相当額で買い取らせるのが公平であり、特に役員は有利な換地であるとの批判を受けないように、単なる増換地とせず、余裕地として公募、入札等の方法により購入者を決めること、売買された余裕地は換地処分として処理することなどを総代会で話し合い、地権者に対しても、余裕地の処分をしても簡単には登記ができないから、余裕地は換地処分として処理して登記する旨を説明会で説明してきたが、この点についても地権者から特に異議は出なかった。

(三) 換地計画の原案となる従前地に対する換地選定作業は、換地委員会において昭和五八年三月二九日、昭和六〇年四月九日、一〇日に実施され、被告は、原告に対し、昭和五八年三月三一日付け一時利用地指定通知書(乙七の1)をもって従前地四四八三番と四五〇二番について一六六二平方メートルの一時利用地指定をし、昭和六〇年四月一六日付けで、従前地五九五九番、五九六〇番イ、五九六二番一について二四二七平方メートルの一時利用地指定の処分をし、また、他の地権者らに対しても、同様に工事完了のつど、一時利用地指定の処分をしてその利用をさせていた(なお、第三換地区の工事は、昭和五九年度までには面整備が終了し、平成二年度には完了した。)。

昭和六一年ころ、原告は、土改連事務所を訪れたが、その際、原告の父誠一所有として五九六〇番イの土地等が記載されている従前の土地(換地)各人別名寄調書(甲一一、一二、乙二五の1、2)に押印をした。

(四) その後、土地改良区では、設定した余裕地について、昭和六三年九月一六日付け書面(乙三一)をもって第三換地区の地権者に対し、購入希望の公募をし、希望が競合した場合には入札するなどして売却したが、その際、未納賦課金のないことを購入資格としたことから、一部地権者が県に抗議したため、県の指示で売却が一時中止されたこともあった。売買代金額は、別途清算単価として、ほぼ時価相当額の一平方メートル当たり田は二〇〇〇円、畑は一〇〇〇円が標準であったが、希望者がいない余裕地については、金額を下げたり、役員が買い取ったりした。なお、本件事業の対象地には、従来から九州電力の高圧電線の鉄柱があり、本件事業の前後に鉄柱を高くして間引きしたが、本件事業にあたりその鉄塔敷地を引き取る者が居なかったため、雑種地として土地改良区が取得した。その鉄塔敷地のうち、第二換地区の鹿屋市海道町四四一番ほか三筆合計八六九平方メートルの土地については、平成二年一二月一三日九州電力に一四〇万一九六〇円で売却され、第三換地区の四三一二番、四四三六番二、四三九八番二、五九六五番の四筆合計六八六平方メートルの土地については土地改良区所有となっている。また、土地改良区は、日陰地のため引き取る者がいなかった四三一四番三の田八七六平方メートルについても、円滑な事業遂行のため雑種地として取得した。

原告は、昭和三三年ころから昭和六三年ころまで鹿屋市花岡町を離れて肝属郡大根占町に居住していたが、花岡町に草刈りに来た際に右の余裕地売却の件を聞き、公募に参加し、四四三六番五の田を代金一一〇万五〇〇〇円で購入し、そのほか、第四換地区内の四筆の余裕地も購入し、平成元年九月ころその代金の支払を済ませた。

結局、余裕地の売却は、第三換地区で田七八二八平方メートル(従前地田の2.66パーセント相当)、畑一五二九平方メートル(従前地畑の0.7パーセント相当)、合計九三五七平方メートル(従前地合計の1.68パーセント相当)であり、第三換地区の余裕地の売却代金合計は一七八〇万円となり、これらは同換地区の工事費の借入金の返済に充てられた。

(五) 右のとおり、原告を含む地権者らが購入した余裕地は、換地計画書作成にあたってその購入者に換地配分されるものとして処理され、前記第二、二、3、(四)、(2)のとおり、昭和六三年九月二八日、二九日、余裕地の配分者を含む換地処分に伴う権利関係を最終的に確認するため、土地改良区による地権者に対する個別説明会が開かれ、土改連においても各地権者に対する従前地と換地先についての照合の確認がなされた。

土改連の職員で換地士の松留は、そのころ、原告に対し、換地計画書原稿(乙二六)を示して内容を説明し、原告の押印を受けたが、その際、四四三六番五が余裕地(保留地)であることを特に説明しなかったものの、同原稿には、同土地も換地の欄に記載されていた。また、原告は、鹿屋市役所での換地計画書縦覧の際に、各筆換地等明細書を閲覧し、四四三六番五が換地として処理されることを知り得たが、何ら異議の申し出をしなかった。なお、本件換地については、同年五月二〇日付けで換地処分による新たな登記がされたが、後記のとおり本件従前地の全てに根抵当権設定登記が付いていた関係で、余裕地として購入された四四三六番五の登記についても根抵当権設定登記が付けられた。

(六) 土地改良区では、第二、二、3、(四)、(3)のとおり、平成元年九月八日、鹿屋市花岡公民館において第三換地区地権者による換地会議が開かれ(甲一九)、換地計画が承認されたが、その際には、従前地の所有権や耕作権が配分地に移って登記されることなどの土地改良区による換地手続の概略と地区面積、従前地の総筆数とその内訳、工事後の総筆数と内訳が明らかにされ、換地計画が承認されれば、登記に向けての手続となること、工事は、平成二年三月末が終了予定であることなどの説明がされた。

県と土地改良区間では、後記のとおり同改良区が清算事務を行うことが予定されており、右の換地会議の終了後に清算委員の選出が行われ、鬼ケ原文雄ほか一四名の換地委員が引き続き清算委員となった。その際、従前から地権者への説明会で説明されていた方針で清算手続を進めることが了承され、具体的な清算方法の決定、清算金の徴収、支払いの事務が清算委員に一任された。そこで、清算委員は、清算委員会を開き、前記方針に従い、また、文化財発掘により工事の進行が遅滞した地域もあったことから、換地区を地形などの条件の類似性、工事の進行状況等によりブロックに分け、ブロックごとに従前地と換地との面積を比較して清算金基準面積率(清算交付率)を定め(乙三四)、同面積率による換地交付基準地積と換地地積との増減を清算することにし、清算金は、用途ごとに余裕地、支払、徴収、法につき清算委員会で決めた別途清算単価(一平方メートル当たり田については、余裕地が二〇〇〇円、支払が一二〇〇円、徴収が一〇〇〇円、法が五〇円とし、畑については、余裕地が一〇〇〇円、支払が六〇〇円、徴収が五〇〇円、法が五〇円である。原告分についての別途清算方式による清算金算出の結果は、別紙三清算金対照表の別途清算欄記載のとおりである。)をもって算出するという方法を採ることにした。

県と土地改良区間では、平成元年一〇月一三日付け県営換地計画・確定測量等業務委託契約書(甲二〇の1)をもって土地改良区に対し、委託業務の履行期限を平成二年三月二三日として第三換地区の換地処分による清算金の徴収支払の事務の委託がされ、土地改良区は、清算金の徴収等をすることになり、鹿屋耕地事務所長に対し、平成元年一〇月一六日付けでその着手届(甲二一の2)を提出した。

(七) 前記第二、二、3、(四)、(4)のとおり、換地計画の公告、同計画書の縦覧等がされた後、被告は、第三換地区の地権者らに対し、従前地に対する換地処分をし、原告に対しても別紙二各筆換地等明細書のとおりの平成四年二月二五日付け本件換地処分をしたが、同明細書記載の従前地等の等位評価の経緯等は、次のとおりであった。

(1) 従前地及び換地の評価方法は、地元の事情に詳しい鬼ケ原文雄ら評価委員(換地委員兼務)一五名が土改連の換地士の指導を受けながら現地を見分し、地味、日照通風、排水等の自然条件と広狭形状、通作関係等の利用条件からなる土地採点基準目票(乙一二)に基づいて各土地を採点した。

(2) 右の評価においては、同一地域の田畑を評価することから、自然条件には差がないという扱いが一般的であり、評点の差はほとんど広狭形状、通作関係(通作距離と車道の良否が細目であり、前者は一番近い公道との距離で採点される。)の差であった。

(3) 従前地及び換地の評定価格の算出方法は、換地計画書(乙九)中の点数別価額表に従い、従前地及び換地ともに、畑は同表記載の等位評点ごとの価格と地積を乗じた額、田は等位評点と地積を乗じた額とし、従前地の評定価格に一平方メートル当たり一三〇円を上積みして換地交付基準額とされた。そして、換地委員会では、換地士の指導を受けつつ、従前地の評定価格ないし換地交付基準額を下回らないように換地を割り当てることになる。

(4) しかるに、換地士の松留は、原告の従前地について、従前地の全てに共同根抵当権設定の登記(①四四八三番、四五〇二番、五九五九番、五九六二番一につき昭和六三年一一月二九日受付、原因同月二八日設定、五九六〇番イにつき平成元年二月一三日受付、原因同日設定、いずれも極度額七〇〇万円、債務者を原告とし、根抵当権者を株式会社鹿児島銀行とするもの、ただし、いずれも平成元年一二月二二日受付で抹消されている、②平成元年一二月一五日受付、原因同月一三日設定、極度額一〇〇〇万円、債務者を原告とし、根抵当権者を鹿屋市農業協同組合とするもの)が経由されていたことから、個々の従前地に対し換地を配分していくと、換地を細分化せざるを得なくなり、農地の集団化という本件事業の趣旨に反することになる一方、換地を細分化しない方法での組合せをすると、換地の評定価格が従前地の評定価格を下回って担保権の侵害となるので、これを避けるために従前地の等位評点を下げることにし、従前地の四四八三番、四五〇二番及び五九五九番をいずれも五八点、五九六二番一が七一点と採点した。

(5) なお、原告は、鹿屋市役所での換地計画書縦覧の際に各筆換地等明細書を閲覧し、従前地の等位評点が著しく低いことを確認していた。

(八) 前記換地処分の公告後、土地改良区は、換地計画書ないし換地処分のとおりの清算金の徴収、交付をしないままであったが、県事務所に平成四年三月一七日付け委託業務完了届(甲二一の1)を提出した。

そして、土地改良区では、前記別途清算を前提とした算出方法に基づく各人別の清算金を算出し、同年一一月一日付けで清算金通知書(乙三三)、清算金内訳兼登記済証明書(乙三二の1、2、同書面には、換地処分のとおり登記済みであることの記載がされている。)、各筆換地等明細書及び清算金算出基礎等について説明会を実施する旨の案内書(乙三四、なお、同書面には、余裕地買入の面積は清算面積から除いてある旨の説明が記載されている。)を各地権者らに配付した(ただし、原告ら数名には各筆換地等明細書は配付されなかった。)。

土地改良区は、同月一八日ころ、鶴羽公民館において清算金算出基礎説明会を開催し、出席した地権者に対し清算金算出内容等につき個別に説明を行った上、同年一二月初めに清算金納入通知書又は交付金支払通知書を関係地権者に配布し、清算金の徴収又は支払いが実施され、大多数の関係地権者については、清算金の徴収、支払手続が終了した。

(九) 原告は、平成四年一一月初めに右清算金通知書等を受け取ったが、同月一八日ころ清算委員長の鬼ケ原文雄らに対し、換地の四四一六番の田が不整形であると不服を述べ、換地のやり直しまで求めたことから、その後の交渉の結果、田については不整形であるとして清算金一二万二八〇〇円の四割が減じられて七万六四〇〇円(うち法六八〇〇円)になり、畑の清算金一一万二六〇〇円(うち法三一〇〇円)と併せて合計一八万九〇〇〇円が原告負担の清算金となった。

原告は、同年暮れころ、親類である鬼ケ原文雄が右清算金の分割納付許可申請書(乙三五)を持参してきたことから、右清算金を支払わねばならないと考えて同申請書に署名押印をした。

(一〇) なお、土地改良区では、県から清算事務を委託される際に特に清算方式の説明を受けなかったこともあり、県の清算方式との違いや問題性を特に意識せずに前記単価等に基づく別途清算を実施したものであり、また、県に対しても別途清算を行うことについて報告、説明などもしなかった。しかるに、原告を含む地権者は、平成五年三月ころ県に対し土地改良区への検査請求をし、県農政部農地整備課計画管理室の上山崎博隆(以下「上山崎」という。)が本件事業経過等を調査したところ、同年八月ころ右別途清算の事実が明確となったものの、前記のとおり県との関係では清算事務は終了したものとして対処していた。なお、右検査請求は、土地改良区の組合員の一〇分の一以上の同意がなく、却下された。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中、原告が知らない間に換地計画書原稿等に押印がされた旨を供述する部分は、乙二六、二七、松留証言に照らして採用することができない。

2 右1の各事実を前提として、まず、余裕地の設定処分が本件換地処分の無効原因となるか否かを検討する。

(一)  一般に、換地選定にあたっては、初めから換地交付率によって配分していくと、配分面積と換地区画の不一致等から配分地が不足することがあることから、換地選定の過不足調整のため、三パーセント程度以内の余裕地を設定することが認められており、その場合は最終的には余裕地を残さないように配分しなければならない。

しかし、右の余裕地の設定は、換地選定の円滑化を図る目的で認められているのであって、その目的を超えて土地改良事業の費用捻出などの目的で余裕地を設定し、土地改良区がそれを取得して売却することは認められないものと解するのが相当である。けだし、何人にも換地しない土地を定めて第三者に売却してその代金を事業費用に充てることは旧来から慣行的に行われてきたものであるが、土地区画整理法においてこれを保留地として事業施行者が取得して第三者に売却することが認められ(同法九六条、一〇四条、一〇八条)、土地改良法施行法一条により廃止された旧耕地整理法(明治四二年法律第三〇号)においても替費地として許容されていた(同法三〇条二項)にもかかわらず、土地改良法には、かかる規定が設けられておらず、従前地を換地として定めない場合としては一定の条件の下で土地改良施設用地や道路用地等公共用地として土地改良区等が当該土地を取得する創設換地制度(同法五三条の三、五三条の三の二)を規定しているにすぎないばかりか、農用地を第三者に処分することは土地改良法ないし土地改良事業が農用地の造成及び集団化を目的とすることに反するうえ、農用地の処分には農地委員会の許可(農地法三条)などの規制を受けるのに、余裕地処分の名のもとに実質上の権利移転を認めることはその潜脱というべきものであることなどからすると、余裕地の設定処分は土地改良法等の趣旨に反するものと解するべきだからである。

(二)  そこで、本件についてみるに、前記のとおり、本件では当初より売却代金を工事費に充当することを予定して余裕地の設定がされ、それを土地改良区が取得して地権者に売却していたのであるから、土地改良法の趣旨に反した換地配分がなされたものとして、換地計画に違法が存するというべきである。そして、換地計画と換地処分とは同一の効果を目指した一連の手続中の処分であり、両者は相結合して土地改良事業の完成を目的とするものであるから、換地計画の違法によって本件換地処分は違法性を帯びるものといわざるを得ない。原告は、売買代金名下に出捐をして余裕地を購入したのに、換地として扱われた四四三六番五にも根抵当権設定の登記が移記され、その負担を有することになった上、被告側においても、土地改良区による余裕地処分の事実を半ば知りながら放置していた形跡も窺えることからすると、余裕地処分をも取り込んでされた本件換地処分には看過し得ない瑕疵があるともいえるところである。

3 次に、右余裕地処分と別途清算及び従前地の等位評価との関係について検討する。

(一)  前記認定のとおり、余裕地処分は別途清算の一環をなすものであるが、別途清算についてみても、県事務所と土地改良区との清算事務委託契約は、換地処分による清算金の徴収支払事務であり、同事務は換地計画において定められ、換地処分の公告により確定した清算金の徴収、交付を行うべきものであるから(土地改良法八九条の二第一〇項、五三条二項、五四条の二第四項、五四条の三等)、土地改良区の行った別途清算は、換地計画で定められた清算と異なる清算である以上、土地改良法に違反していることは明らかである。そして、土地改良区は、前記のとおり、県から清算事務の委託を受けた前後の換地計画の段階において既に別途清算を実施することを決定していたのであり、実行予定の別途清算を換地計画に定めなかったものであるから、換地計画に違法が存すると捉えるべきであって、前記のとおり換地計画の違法により本件換地処分は違法性を帯びるものといわざるを得ない。

(二)  被告は、右の清算について、被告がした本件換地処分は別紙二各筆換地等明細書のとおりであって、これが照応原則に反しない以上、本件換地処分の瑕疵にはならないと主張する。

しかし、県は、土地改良区に清算事務を委託している以上、土地改良区の右違法行為の影響が本件換地処分に全く及ばないと解することは困難というべきである。

また、右の各筆換地等明細書自体をみても、前記土地改連の松留のなした原告従前地の等位評点については、恣意的かつ不合理な評点というほかはない。従前地を殊更低く評価されることは換地や清算金に直接影響し、原告に不当な不利益を課すことになるのであって、右の等位評点は極めて妥当性を欠いたものというべきである。証拠(乙二七、二八、証人松留、同上山崎)によれば、上山崎らによる原告従前地についての等位評点を見直すと、従前地の五九六〇番イ及び換地の四四一六番、五九四八番の等位評点は相当であるものの、周囲の土地の等位評点状況などからみて、従前地の四四八三番は八一ないし八九点、四五〇二番は九四点、五九五九番は九二点、五九六二番一(五九五七番乙ロ)は九二点、換地の五九四八番は九六点という等位評点が相当であることが認められるから、原告の従前地評価不当の主張は、理由があるといわねばならない。そして、右の見直した等位評点を前提にしても、余裕地を除く換地の評定価格は三〇五万二三二〇円であるのに対し、従前地の評定価格は二六二万〇〇二八円で換地評定価格を上回るが、換地交付基準額は三二五万七六八五円で換地評定価格を下回るのであり(乙二八別紙9)、照応原則との関係においても余裕地処分の本件換地処分に与える影響は少なくないものである。

4 しかしながら、右の各違法が本件換地処分を無効とする重大かつ明白な瑕疵といえるか否かは、さらに検討を要する。

(一)  まず、余裕地を設定し、土地改良区が地権者に売却した点については、余裕地の売却面積が前記のとおり田2.66パーセント、畑0.7パーセント、合計で1.68パーセントであり、換地設計基準所定の余裕率をほぼ満たしている上、最終的には換地として処理されており、土地改良区が介在したとはいえ、換地の配分調整の問題とみる余地もあり、地権者に売却する限りは農用地の減少を招かず、むしろ集団化に資するともいえるのであって、前記土地改良法の趣旨に反することもない。また、本件の地権者への売却は、別途清算の一環として、換地交付基準以上に土地を取得する者には単なる増換地による清算を行うより高額の時価相当額で取得させる方が公平に適うという判断に基づくものであり、その売却方法も公募、入札等の公正な方法でなされており、一応の合理性が認められる。さらに、売却代金を工事費に充てた点についても、売却代金は本来清算金の原資になり、残余が生じた場合には従前地に相応して分配されるべきものと解されるところ、工事費もまた従前地に相応して負担するものと推認されることからすると、売却代金を工事費に充当して地権者全員の利益とすることも、さほど不当、不合理なものではない。しかも、余裕地設定、処分を行うことにつき、地権者らから特に異議は出ておらず、原告も積極的に余裕地を購入したのであり、昭和六三年九月の個別説明会や平成元年九月の換地会議(第二、二、3、(四)、(2)、(3))でも各地権者への確認がされ、鹿屋市役所における換地計画書の縦覧(第二、二、3、(四)、(4))でも余裕地処分に関し異議申立はなかったのであるから、原告を含む地権者の同意があったとみるべきである。

そうすると、本件の余裕地の設定、処分は、違法といわざるを得ないものの、本件換地処分を無効と認めるほどの重大な瑕疵ということはできない。

(二)  また、本件においては、土地改良区が高圧電線の鉄塔敷地や日陰地を取得しており、これについても、土地改良区が当該土地を換地として定めずに取得する創設換地の手続(同法五三条の三、五三条の三の二)が履践された形跡はない上、換地設計基準(乙一一)には条件の悪い特殊地は従前地所有者が取得することと定められていることからすると、土地改良区が当該土地を取得したことは違法であるといわざるを得ず、違法に換地を定めなかったものとして、換地計画の違法、ひいては本件換地処分の違法事由となる。

しかしながら、農地の集団化を目的とする本件事業においては、多数の地権者の利害調整による円滑な実施が求められているところ、前記認定のとおり、土地改良区の当該土地の取得は、本件事業の円滑な遂行のためにやむを得ない措置ともいえる上、鉄塔敷地については公共的用地としての必要性も認められ、さらに土地改良区が取得した面積は鉄塔敷地と日陰地を合わせて一五六二平方メートルであり、第三換地区の従前地の約0.3パーセント足らずであることからすると、その瑕疵は軽微なものというべきである(なお、土地改良区が高圧電線の鉄塔敷地の一部を第三者である九州電力に売却した点については、当該土地は第二換地区内の土地であり、原告に対する本件換地処分とは関係がないから、主張自体失当である。)。

そうすると、土地改良区が右土地を取得したことも、本件換地処分の無効原因になり得るものではない。

(三)  さらに、土地改良区が行った別途清算についても、土地改良区がした別途清算の目的、内容、本件換地処分における清算との関係等を検討して、本件換地処分を無効とすべきものか否かを判断するべきである。

(1)  そこで、まず別途清算の目的、内容についてみるに、前記認定のとおり、右別途清算は、本件換地処分による換地を前提として、従前地の地形等の条件差に配慮し、地権者間の実質的平等を図る目的で私的な清算を行ったものであり、その内容は条件の類似したブロック毎に地積を基準とし、明確な清算単位により清算金を算出するなど、その方法は地権者間の実質的公平を図る清算の趣旨(法五三条二項)に合致しており、一応の合理性が認められる。しかも、右別途清算については、土地改良区において、地権者に対し説明をし、地権者からも特に異議が述べられた形跡がなく、原告自身も、前記のとおり清算金分納許可申請書に署名押印をしており(なお、押印時に同申請書の金額欄が空白であったと認めるに足りる証拠はない。)、右別途清算を承認したとみることができる。なお、原告は、別途清算が農地法の規制潜脱等の不法な目的でなされたとの主張をするが、同主張を裏付ける証拠がない上、原告に対する本件換地処分との関係も明らかでないから、同主張は採用できない。

そうすると、右別途清算それ自体の違法は、重大な瑕疵とはいえず、本件換地処分を無効とするには足りないというべきである。

(2) また、従前地評価と清算金の負担についてみれば、従前地及び換地について見直し後の評点に基づき照応関係を検討すると、前記のとおり、従前地の五九六〇番イが九二点であるのに対し、換地の四四一六番が九六点、従前地の四四八三番、四五〇二番、五九五九番がそれぞれ八九点、九四点、九二点(平均九二点)であるのに対し、換地の五九四八番が九六点、従前地の五九六二番一(五九五七番乙ロ)が九二点であるのに対し、換地の四四三六番五が九三点であるところ、等位については全ての換地が従前地を上回っている。また、用途別の評定価格でみても、畑の従前地合計が一〇四万一三四八円に対し、換地合計一三六万〇八〇〇円、田の従前地合計が一五七万八六八〇円に対し、換地合計二一六万一一七〇円であり、評定価格総計でも、従前地が評定価格二六二万〇〇二八円、換地交付基準額三二五万七六八五円、換地が三五二万一九七〇円であり、換地評定価格が従前地評定価格のみならず、換地交付基準額をも上回っている。

そうすると、本件換地処分における従前地の等位評点には前記のとおり妥当性を欠く点があったものの、従前地と換地との等位評点に関する照応について、原告は照応以上に有利な換地を受けていることになる。

これに対し、原告は、従前地及び換地につき独自に採点を行い、各従前地に対する換地との対応関係につき不公平であると主張するが、原告の採点のうち、前記認定の見直し評点に反する点については、十分な根拠があるとは認められず、原告の右主張は採用できない。

(3) ところで、原告は、不当な等位評点により過大な清算金を課されたことから、本件換地処分は不公平であり瑕疵があると主張し、別紙二各筆換地等明細書上は、なお右清算金を支払うこととされている。

しかしながら、本件換地処分における清算の実施については、前記のとおり、土地改良区による別途清算が行われたのであり、県としては本件換地処分に基づく清算事務は終了したものとして扱っており、その徴収は考えられないことからすると、原告は妥当性を欠いた等位評点により不当な清算金を課されたということはできない。右別途清算は、県との関係では違法であるものの、その目的、内容には一応の合理性があり、私法上の清算合意として当然に無効とはいい難いものであるところ、別紙三のとおり、別途清算による原告の清算金は一二九万四〇〇〇円(うち余裕地徴収額一一〇万五〇〇〇円は支払済み)となるが、この清算金の多少は、土地改良区と原告との間で解決されるべき事柄であって、現に原告はそれまでにも交渉をして減額をさせたのであるから、本件換地処分の照応とは別異の問題であるというべきである。

したがって、原告の右主張は採用できない。

(4) また、原告は、四四三六番五について、余裕地を購入したものであり換地ではないと主張し、また購入した余裕地が換地として処理されることにつき説明を受けておらず、承諾していないと主張し、余裕地として購入された四四三六番五の土地にも根抵当権設定の登記がされていることは前記認定のとおりであるが、余裕地購入分は換地として処理されることが前提となっており、このことは、原告も了知していたというほかはないから、これらの主張は採用することができない。

(5) なお、本件において、土地改良区が換地計画で定められた清算金の徴収支払を行っていないことは前記のとおりであり、これ自体は法五四条の三及び換地計画書の定めに反するものであるが、清算金の現実の徴収、支払は本件換地処分後の手続であるから、これが未了であることは、本件換地処分自体の無効原因とはなり得ないことが明らかであるから、清算金の徴収交付の未了をいう原告の主張はそれ自体失当というべきである。

(四)  以上のとおりであって、本件換地処分は、余裕地売却、別途清算等の法上の規制等を潜脱する処理がその前提としてなされる結果となっており、違法なものであるものの、その瑕疵は重大なものとまではいえず、従前地と換地の対応は、概要において相当ということができる。そして、これらの別異の清算手続は、地権者らにおいて説明を受け、又はその機会が十分に存したのであり、原告においても、換地計画書(各筆換地等明細書)を縦覧の際に閲覧しており、異議申立の機会もあったのに、これを放置していたのであって、実際の出捐を伴う清算は、土地改良区による別途清算が予定されており、被告県による清算金の徴収は将来においてもされることがないというのであるから、なお、実際の出捐につき清算の余地があるとしても、それをもって本件換地処分の重大かつ明白な瑕疵ということはできないというべきである。

三  争点4(照応原則)について

1  一筆毎の照応の要否について

一般に、同一所有者の数筆の従前地と数筆の換地との組合せについては、数筆の従前地に対し数筆の換地を定めることは、従前地と換地との各筆の対応関係を確定できず、登記手続ができないなど権利関係を複雑にすることから許されないのに対し、数筆の従前地に対して一筆の換地を定め、一筆の従前地に対して数筆の換地を定めることは、右のような弊害もないから、許されないものではない。そして、土地改良法五三条一項二号の照応原則については、農用地の集団化等の農業構造の改善を達成するという土地改良法の事業目的(同法一条、五二条三項等)に照らすと、同一所有者に対する従前地全体と換地全体とを総合的にみてその間に照応関係が認められれば足りるのであって、従前地に所有権及び地役権以外の権利又は処分の制限がある場合(同法五三条三項、四項)には、担保権者等の保護ないし処分制限の保全の必要性から、従前地とこれに対する換地との個別の照応が特に必要とされていると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、前記認定のとおり、原告所有に係る従前地五筆については、全部に同一根抵当権が共同根抵当権を設定しており、換地三筆全部に移記されているから、従前地に対応する換地が全体で照応していれば、根抵当権者の担保権は保護されるのであって、原告については、一筆毎の照応が必要であるということはできない。そうすると、この点に関する原告の主張は失当であり、採用できない。

なお、原告所有地については、三筆の換地を五筆に分筆し、従前地との組合せを替えることにより、各従前地と換地の対応ごとに五三条一項二号(照応)、三号(地積増減二割未満)の基準に適合させることが可能であり、本件換地処分には実質的にみても二号、三号違反の違法はない。

2  地積について

(一) 従前地の面積について

(1) 原告は、被告が従前地につき適法な実測をしていないと主張するが、前記のとおり、従前地の面積は適法に実測されており、原告の主張は失当である。

(2) 原告は、四四八三番、四五〇二番について、国有地との境界確定がなされておらず、水路の法部分が国有地に取り込まれていると主張するが、原告が右従前地と国有地である水路との境界につき異議を述べた形跡はないから、前記のとおり、境界確定協議を要するとはいえず、また、原告所有地が違法に国有地に編入されたと認めるに足りる証拠もない。

(3) また、原告は、五九五九番は里道と隣接していた、五九五七番乙ロと五九六二番一との入れ替え処理につき原告は同意していない、五九五七番乙ロないし五九六二番一の面積を二〇〇平方メートルとするのも根拠がないと主張し、それに沿う証拠(甲四ないし六の各1、2、乙一三の1、二三の1ないし3)もある。

しかしながら、証拠(甲一二、乙一三の一、乙一六の1、2、乙一八、二一、二四、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、字図及び登記簿などによると、五九五九番の南側に隣接して五九五七番乙ロ(登記簿面積八〇三平方メートル)が道路に面して存在していたこと、原告名義の五九六二番一(登記簿上の面積九八八平方メートル、実測面積一一六一平方メートル)については、昭和三七年ころ鬼ケ原幸盛が原告の父鬼ケ原誠一から買い受け、昭和五一年一一月ころ鬼ケ原文雄に所有権移転登記手続をするに際し、五九六二番一と五九五七番乙ロとを誤って登記がされたこと、そこで、鬼ケ原文雄の申出により本件換地処分に際し五九六二番一と五九五七番乙ロを入れ替える形で処理したこと、原告も五九六二番一が原告所有でなく、五九五七番乙ロが原告所有であることを自認していることが認められる。そうすると、航空測量図による五九五九番(実測面積一四九〇平方メートル)について、字図等に照らして五九五九番の実測面積を一二九〇平方メートル、五九五七番乙ロの実測面積を二〇〇平方メートルと割り振り、境界と実測面積を確定したことには特に問題はなく、原告には何ら不利益が生じていないのであるから、従前地の地積に瑕疵があるという原告の主張は正当でなく、採用できない。

(二) 地積の照応について

(1) まず、原告は、登記簿上の従前地の地積を基礎にして換地の地積との対応において不当不公平な扱いを受けていると主張するが、照応の前提である従前地の地積の捉え方自体が正当でないから、原告のこの点の主張は採用することができない。

(2) そこで、従前地の地積と換地の地積の照応についてみるに、原告の従前地の実測面積は、別紙二各筆換地等明細書記載の地積欄の上段括弧内のとおりである(同欄の下段が登記簿上の地積である。)ところ、全体として、従前地は四九四六平方メートルで、換地交付基準地積(93.96パーセント)は四六四八平方メートルのところ、換地は五一〇二平方メートルであり、換地交付基準地積を四五四平方メートル、従前地を一五六平方メートルも上回っている。

また、用途別にみても、畑は従前地三二三四平方メートルに対し換地二八三五平方メートル(87.6パーセント)、田は従前地一七一二平方メートルに対し換地二二六七平方メートル(132.4パーセント)となっており、第三換地区の総計(乙九)では、畑は従前地二一一五八〇平方メートルに対し換地一八二五六九平方メートル(86.3パーセント)、田は従前地二九四四九八平方メートルに対し換地二九二九五五平方メートル(99.4パーセント)であるから、いずれも換地交付基準を上回っている。

さらに、個別的にみても、四四八三番、四五〇二番、五九五九番については従前地合計三〇〇二平方メートルで、その換地交付基準地積は二八二一平方メートルのところ、換地の五九四八番は二八三五平方メートルであり、一三平方メートルの増歩となっている。また、五九六二番一(五九五七番乙ロ)は二〇〇平方メートルで、その換地交付基準地積は一八七平方メートルであるところ、換地の四四三六番五(なお、これは余裕地処分の分であるが、前記のとおり、換地として扱われるべきものである。)は五〇五平方メートルであり、三一八平方メートルの増歩となっている。従前地五九六〇番イに対する換地四四一六番の地積上の有利性は明らかである。

そうすると、原告は、照応以上の有利な換地を受けているというべきであって、地積について照応原則違反は認められない。

3  横の照応について

(一) 法五三条の一項二号の照応原則は、従前地と換地との照応のみならず、ある地権者について、他の多数の地権者と比較して、合理的理由がないのに著しく不公平、不利益な換地をすることを禁じる公平原則をも含意するものというべきである(この意味の照応を「横の照応」という。)。

(二) 原告は、第三換地区の平均的増加及び鬼ケ原文雄の増加に比べて原告の増加が少ないから、公平原則に反すると主張するが、第三換地区の平均的増加が一三点である根拠が不明であり、また、評定価格であればともかく、等位評点のみの平均を比較しても他の地権者との公平を害するか否かは明らかにはならないから、原告の主張は採れない。

(三) また、原告は、土地改良区の役員に余裕地設定による有利な換地がなされ、公平に反すると主張するが、余裕地は、役員以外の者(本白水刷夫など)の一時利用地にも隣接して設定されており、その設定時期は昭和五八年ころから昭和六〇年ころであるのに対し、古江バイパスの土地買収は平成四年暮れころに初めて明らかになったこと(証人児島盛敏)、役員でも減歩となった者(八木知雄など)もいること(甲二五、原告本人)などの事情を考慮すると、原告の主張は推測の域を出るものではないというべきであって、同主張を裏付けるに足る証拠はない。

なお、この点につき、証拠(甲二四、二五、原告本人)によれば、理事長児島盛敏が換地交付基準地積一三五〇平方メートルに対し一五三七平方メートル、役員八木政則が換地交付基準地積一四二三平方メートルに対し一七〇九平方メートル、同寺村光二が換地交付基準地積四一九五平方メートルに対し五九〇一平方メートル、同本田ハツエが換地交付基準地積一五三三平方メートルに対し三八二二平方メートル、同新保満夫が換地交付基準地積五四七平方メートルに対し九五五平方メートル、同田原武徳が換地交付基準地積四八三平方メートルに対し一九二九平方メートルにそれぞれ増配分となったことが認められる。しかしながら、他方、証拠(乙三六の1ないし3、三七ないし四一、証人児島盛敏)及び弁論の全趣旨によれば、児島盛敏、八木政則、寺村光二、本田ハツエ、新保満夫、田原武徳名義の換地には、家族名義の従前地につき減歩となったもの、余裕地を有償で取得したもの、第三者が受けるべき換地を当事者の合意のもとで有償で取得したもの、法部分、道路不要部分を取得したものなどが含まれていることが認められるのであって、前記のとおり、余裕地取得は、公募手続が採られた上、別途清算の一環として清算金より高額の時価相当額を徴収されていることを併せ考慮すると、右役員らに対する増配分をもって役員に特に有利な換地がされたということはできない。そして、原告についてみても、換地交付基準地積四六四八平方メートルに対し五一〇二平方メートルの増配分を受けているのであって、原告に対する本件換地処分が役員その他の地権者と比べて著しく不公平、不利益な換地であるとは到底いうことはできない。

そうすると、横の照応違反をいう原告の主張も採用できない。

4  原告の承諾について

原告が昭和五八年、昭和六〇年に送付された一時利用地指定通知書及び昭和六一年ころ入手した従前地各人別名寄帳により従前地の実測地積を確認し、それにつき異議を述べた形跡がないことは前記第四、一、3、(一)、(4)のとおりである。また、原告が確定地積が記載された換地計画書原稿を閲覧して押印し、また、等位評点等が記載された換地計画書を鹿屋市役所での縦覧の際に閲覧していたのに、本件換地処分前に異議申立をしなかったのであるから、原告は、本件換地処分の地積や等位等の照応につき承諾していたとみるのが相当である。

5  以上のとおりであって、従前地評価の等位評点の照応についても前記第四、二、4、(三)、(2)の説示のとおりであるから、本件換地処分は、法五三条一項二号の照応原則に適合したものということができる。

四  争点5(換地処分通知書の送付遅滞)について

知事は、換地処分をした場合は、その旨の公告をしなければならない(法八九条の二第一〇項、五四条四項)ところ、換地処分は地権者に換地計画において定められた関係事項を通知してするものであり(法八九条の二第九項)、通知は換地処分の成立要件と解されることから、換地処分の通知は、公告に先立って地権者に到達していなければならないと解すべきである。しかるに、前記第二、二、3、(四)、(4)のとおり、本件換地処分は平成四年二月二五日に、その公告は同年三月一一日になされているにもかかわらず、原告に換地処分通知書が送付、到達したのは平成五年一月一五日ころであって、この点も本件換地処分の違法事由になり得るものである。

しかしながら、地権者は換地処分に先だって権利者会議や縦覧の際に換地計画書の内容を確認する機会が与えられ、原告も換地計画書を閲覧しているのであるから、換地処分の公告がされたことにより、原告は換地処分の存在及びその内容を了知していたとみることができる。そうすると、本件換地処分の通知が遅延したことによって原告が甚大な損害を被ったとはいえず、結局、通知と公告の順序が逆になったものの、所定の手続が完了したのであるから、換地処分通知書の到達をもって、本件換地処分の瑕疵は治癒したものと解するのが相当である。

したがって、換地処分通知書の送付遅滞の点も本件換地処分を無効とするものではない。

五  以上のとおりであって、原告が本件換地処分の重大かつ明白な瑕疵であると主張する諸事由は、いずれも本件換地処分を無効ならしめるものとは認められない。

第五  結論

よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官牧弘二 裁判官山本善彦 裁判官鈴木秀行)

別紙一 物件目録<省略>

別紙二 各筆換地等明細書<省略>

別紙三 清算金対照表<省略>

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